Kecofinの投資情報

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タグ:鉱工業生産

9月の米国の鉱工業生産と小売売上高が発表になった。

両者から、7-9月期の実質GDP前期比成長率(年率)を推計すると、2.86%となる。
しかし、9月単月の3か月前比成長率(年率)の推計値は1.03%と急低下している。
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中国は中国の事情で、7-9月期の実質GDP前期比成長率(年率)は0.8%と急低下したが、米国も経済成長は軟化している。

米国の成長軟化の背景は、
以下 米国の成長率も減速 株価への影響は? - Kecofinの投資情報 - GogoJungle へ。

ISM製造業指数は歴史的にも高いところにあるが、鉱工業生産増加率は収縮した。
鉱工業生産増加率の収縮は寒波の影響を受けたもののようであるが、どういうわけかISM製造業指数は殆ど影響を受けていない。両者の動きの差はどこにあるのか?
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両者の動きの乖離が著しかったのは1997年頃である。鉱工業生産伸び率は好調だったが、アジア通貨危機などでISM製造業指数は低調だった。要は、国内景気に比べグローバル経済が弱かったということだ。
今起きているのは、その逆だ。グローバル経済が好調なのに、国内景気が弱いのだ。
かくして、グローバル経済を反映する企業業績はいいのに、国内経済を反映する財政・金融政策は刺激的なのである。そうして株高がもたらされている。国内経済と株価が遊離している。
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2月の米鉱工業生産指数は前月比2.2%低下。
<参考>■2月の米鉱工業生産、2.2%低下 寒波による稼働停止で: 日本経済新聞
2月の米小売売上高は前月比で3%減少した。
<参考>■米小売売上高、2月は3%減 寒波で一時的落ち込み | ロイター

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小売売上高は前月伸びすぎた反動減という面があるが、鉱工業生産の減少はまずいだろう。
鉱工業生産は、3か月前と比較しても減少している。
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米鉱工業生産と小売売上高から2021年1ー3月期の実質GDP前期比成長率(年率)を推計すると2.6%となる。通常時なら前期比伸び率2.6%は悪くないにしても、この回復期にこれでは困るだろう。金融・財政政策が正当化されるデータだ。(但し、市場が気にしているのは、経済成長率ではなく、インフレの方だが・・・)
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日経やロイターの記事を見ると、2月中旬の厳しい寒波の影響のようで、寒波の影響を除くと製造業は0.5%程度のマイナスで、鉱業は0.5%程度のプラスだった。

<参考>■The Fed - Industrial Production and Capacity Utilization - G.17
In February, total industrial production decreased 2.2 percent. Manufacturing output and mining production fell 3.1 percent and 5.4 percent, respectively; the output of utilities increased 7.4 percent.

The severe winter weather in the south central region of the country in mid-February accounted for the bulk of the declines in output for the month. Most notably, some petroleum refineries, petrochemical facilities, and plastic resin plants suffered damage from the deep freeze and were offline for the rest of the month. Excluding the effects of the winter weather would have resulted in an index for manufacturing that fell about 1/2 percent and in an index for mining that rose about 1/2 percent. Both indexes would have remained below their pre-pandemic (February 2020) levels.

At 104.7 percent of its 2012 average, total industrial production in February was 4.2 percent lower than its year-earlier level. Capacity utilization for the industrial sector decreased 1.7 percentage points in February to 73.8 percent, a rate that is 5.8 percentage points below its long-run (1972–2020) average.


経済の最終的な目標は、皆が豊かに暮らすこと。
経済政策の目標(一般論)は、経済成長、完全雇用、物価安定、経済のサステイナビリティ(持続可能性)。ここでの経済成長とは、より多くの人が豊かな暮らしをして、そのレベルが上がっていくことだ。
より多くの人が社会にサービスを提供し、その対価(報酬)を受け取り、逆に、その報酬でサービスを受ける状態。未来に大きな不安がない状態。これが健全な経済だ。

なぜ、こんなことを言うかといえば、米国の経済をみていてアンバランスを感じるからだ。

次は鉱工業生産と小売売上高である。どちらも実質(要は量)である。
2015年に何があったのだろう。小売売上高が伸びる一方、生産が減少している。大時価総額テクノロジ―企業(GAFAMなど)のファブレス化が始まったということだろうか?しかし、それでいいのか?
トランプ大統領はそれを是としなかった。しかし、新型コロナで打ち砕かれたようだ。
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生産者物価は鉱工業生産と概ね連動する。80年以降、例外が3回ある。1度目は97年である。米国経済は悪くないがアジア通貨危機で世界経済が停滞した時である。2度目は2012年、ユーロソブリン危機のときである。そして、今回。しかし、今回は前2回と違って、米国の生産が落ち込んでいる中で生産者物価が上昇している。中国経済が世界経済をけん引しているのである。
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米国の生産とISMにもギャップが起きている。生産の前年比はまだ低いのに、ISM指数は高い。背景の一つはファブレス化だと思う。ファブレス化の恩恵を受けたのは中国である。
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何を言いたいのか?米国経済に構造変化が起きていて、経済動向をどう読んでいいのかわかりにくくなっているということだ。
株価はバブル。経済は歪み(distortion)が起きているのではないか?その結果、雇用の拡大は難しくなっているかもしれない。そんな経済は健全ではないのではないか?それが日本経済にも影響してこないか? まぁ、株価には関係のない話なのかもしれないが・・・。

最後に 鉱工業生産と小売売上高から2020年4Qの実質GDPを推計すると、
前期比年率で4.7%。 前年同期比でほぼゼロ(0.3%)だ。
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米国の生産の回復は遅いのに、原材料価格が力強く上昇している。
1982年以降昨年まで、生産の前年比がマイナスなのに、原材料価格の前年比がプラスになったことはない。
今回は、中国が世界経済(原材料価格と連動する傾向がある)をけん引している。
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米国の生産の回復は遅いのに、消費は力強く拡大している。
財政、金融刺激による。
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なので、輸出の回復は鈍いが、輸入の回復は早い。
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米国の生産の回復は遅いのに、企業マインドだけは高い。
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生産の拡大はトランプ大統領の最優先課題だったはず。結果は出なかったということだ。


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