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市場歴約40年の元証券投資ストラテジスト・ファンドマネージャーが、経済、市況分析情報を提供します。

タグ:米国株価

背景は米10年国債利回り上昇⇐インフレ懸念。


相場が調整する条件は、
(1)企業業績悪化=ISM指数50割れ=経済成長縮小
(2)金融政策が量的緩和縮小(テーパリング)

(1)の可能性はまずない。∵ 中国経済の好調持続&米財政刺激策
(2)当面、その可能性はないが、米10年金利が上昇していることで市場は懸念している。
10年金利が上昇している背景は、インフレ懸念が高まっていること。
そうであれば、Fedは量的緩和を続けるのは難しくなる。

次のチャートに見るように、市場の期待インフレ率は上昇し、2.2%近くになっている。
Fedの目標値は2%(2%より低いのも容認しない。2%を一時的に超えるのは容認)なので、市場が懸念(本当に、インフレ率が2%を超えて、Fedがテーパリングに入る懸念)するのも無理はない。
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なお、金利上昇で、相対的に債券が魅力的になり、株価から債券への資金シフトが起き、株価調整ということもあろうが、その金利水準は、新型コロナ感染症拡大前の1.5%と考えている。

問題は、
(1)期待インフレ率が上昇している背景は何か?
(2)本当にインフレは起きるのか?

(1)の背景は、原油価格の上昇である。期待インフレ率は原油価格との連動性が高く、原油価格の上昇が期待インフレ率の上昇をもたらしている。昨年4月は、一時原油価格がマイナスになったこともあり、今年4月には原油価格の前年比は急騰するだろう。ただし、これは一時的である。
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(2)市場がインフレ懸念を持っているのは、原油だけでなく、コモディティー全般が高く、それがインフレを引き起こすのではないか? また、今はI小売売上高などに見るように景気は悪くないが、そこへ1.9兆ドルの追加経済対策を行えば、景気過熱を起こすのではないか? ということだ。

しかし、本当のインフレはそんなことでは起きない。インフレが起きるのは、賃金が強く上昇するときだ。最低賃金引き上げは多少物価上昇をもたらすかもしれないが、微々たるものだ。今の雇用情勢では、賃金インフレは起きないだろう。

以上のわけで、企業業績拡大(経済成長)は続く。一時的な総合物価上昇率は高まるだろうが、持続的なインフレは起きないので、金融緩和も続く。株式市場はインフレ懸念でマイナーな調整はあるかもしれないが、上昇トレンドは続いている。

米国株価水準については何度も取り上げてきた。
ここで、再度復習しておく。

新型コロナ感染症拡大後、株価と企業業績に大きなギャップが生じている。
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(注)プロフォーマEPSとは経常収益のことである。会計上の最終利益(当期利益)に一時的損益を戻し入れ(add back)て計算する。

なぜ、こんなことが起きたのか。
(1)世界的な低金利
日本、欧州と金利がない世界で、一人金利があった米国も金利がなくなった。
FRBは2020年3月15日、臨時のFOMCを開催し、FF金利の誘導目標を、1.00~1.25%から0.00~0.25%(実質ゼロ金利)に引き下げた。
米FRB、臨時のFOMCを開催、1.0ポイントの追加利下げとFRBによる資産購入拡大を決定(米国) | - ジェトロ

世界の投資資金は行き場を失い、勢い株式市場を押し上げた。

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(2)また、FRBは国債、住宅ローン担保証券(MBS)買入により、流動性供給を行った。

(3)さらに、政府は3月以降矢継ぎ早に大規模な 財政政策を打ち出した。この結果、企業業績も急速に回復に向かった。

米国株価は企業業績に大きなギャップが生じている=PERが拡大している。1999年の株価バブル(ITバブル)時並みのPERになった。計量的には、上記(2)のマネーサプライ(M2の前年同期比増加率)の急増が高PERを支えている。
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点線は、今後、株価は今の水準(S&P500が3,934.83)が続き、EPSは予想どおりになると仮定した。

こうしてみると、さらに株価が上昇していくかどうかは、1.9兆ドル規模の追加経済対策がどうなるかが重要だが、株価が調整するかどうかは、金利動向・マネーサプライ動向が重要だろう。
参考 バイデン米政権、将来のインフレ憂慮よりも目前の経済課題に全力対応 - Bloomberg

(続く)


これは、前にも書いたことがあるが再度取り上げる。
<結論>
・Fedの現在の金融政策が変わらない限り、はじけないだろう。
・Fedの現在の金融政策が変わる予兆は、今のところ見られない。
・Fedの現在の金融政策が変わるとすれば、インフレ懸念が高まるときである。
・インフレ懸念が高まる可能性は大きく無いが、あるとすれば、商品(原油も含む)価格高、ドル安で、コストプッシュ、輸入物価インフレが背景となろう。4月頃から注意。


昨年、米国株価(S&P500 )は16.3%上昇した。EPSは▲23.3%だったが、PERが51.6%増だった。
   株価上昇率は (1+EPS増加率)×(1+PER増加率) に分けられる。

今年は、EPSは36.5%増、PERが▲19.8%増で、株価は9.5%上昇と考えている。
EPS増加の理由は、財政刺激、IT絡みは引き続き伸びる、エネルギーセクターは足を引っ張らない、中国経済の好調は続くといったことである。

現在の株価がバブルというのはPERが異常に高いからである。30倍を超えている。99年ITバブルの時より高い。
しかし、今回は、マネーの急増が高PERを支えている。

・今の株価が今後変わらない。
・Fedの金融政策が変わらない。国債と住宅ローン担保証券の購入額も変わらない。
・EPSの見通しはS&P社の予想に基づく
と仮定した場合の、S&P500のPERとM2伸び率のグラフは次のとおりである。
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マネーの伸び率は2月から急低下する見込みである。(減るわけではない。伸び率が低下するだけである)
多分、PERもそれに合わせて極めて緩やかに低下しよう。もはや、PERが株価を押し上げない。
しかし、PERの低下は、株価の下落ではなく、EPSの増加によって起きるので、株価の調整は起きないだろう。

以上が、単純な見通しである。
しかし、相場はいつも予期せぬことが起きて、いつものように見通しはひっくり返る。
一つ言えることは、予期せぬことが起きて相場がさらに高くなるか、大きく下落するかというと、その場合は、今回は前回(昨年)と違って、後者の可能性の方が大きいということだ。

<追記>
当ブログはプロの投資家向けであるが、上記のグラフでは、
PERを出すのに、プロフォーマEPS(特別損益計上前)を使っている。また、マネーととしてはM2を使っている。
本当は、プロの世界では、EPSとしてreported eps(会計上の当期利益)、マネーはMZM(MMFや普通預金などの流動性が極めて高いマネーストック)を使う。
どちらをつかっても、大差ないが、参考のため、後者のグラフは、
20210116

$SPX | SharpChart | StockCharts.com

今の株高の背景は、株を十分に保有していない人の焦り買いだ。
株の保有が十分でない人は焦り狂っている。自分がそうだからよくわかる。
運用会社も、株に投資して儲けるのが仕事なのに、こんなに株価が上昇しているときに持っていませんでしたでは、顧客に何て言っていいかわからない。

じゃあ、何故株の保有を抑えていたのか? 
株価が高すぎると思っているからだ。
次のグラフを見れば明白だ。
20201125a
PERは2000年の株価バブル時並みの水準になっている。

また、超長期で名目GDPに対する株価の比率を見ても、よくわからない時代の1937年以来の高さだ。
これでは高所恐怖症にでもなろうというものだ。
20201125b
20201125c

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