Kecofinの投資情報

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タグ:新規失業保険申請件数

米国雇用現場は混乱している。5月の予想はパス。理由は、次の通り。
(1)新規失業保険請求件数と失業保険継続受給者数の関係が混乱している。
(2)4月について、米労働省労働統計局(BLS)とADP雇用統計の整合性が取れていない。
(3)5月のISM製造業景気指数の雇用指数は、前月の55.1から50.9に低下し、昨年11月以来の水準にとどまった。政府の失業保険延長給付の影響。
5月の米製造業景況感0.5ポイント上昇 供給制約続く: 日本経済新聞

米国雇用統計4月データについて、
<参考> ■米4月雇用統計:男女間、人種別、学歴別で明暗分かれる | My Big Apple NY

(1)私は、雇用統計の予想は、基本的に新規失業保険請求件数をベースに予想してきた。
(A)企業が人の採用が活発だと退職者が少なくなる⇒雇用保険申請者数が少なくなる。また、退職者が増えると申請者数が増える、ということで、両者の相関を見ていた。
(B)補完的に、新規請求者数が拡大すれば、それに遅れて(請求が認められて給付が始まるので)雇用保険受給者数が増加するので、時間差をもって両者の相関もチェック。
また、受給者が雇用されると、雇用が決まってから、時間差を置いて受給が止まるので、時間差をもって両者の相関もチェック。

ところが、新規請求者数と受給者数の相関がこれまでにない様相になっている。理由はわかっている。政府の失業保険延長給付の影響だ。
20210602a


(2)4月について、米労働省労働統計局(BLS)とADP雇用統計の整合性が取れていない。
20210602b

(3)5月のISM製造業景気指数の雇用指数は、前月の55.1から50.9に低下し、昨年11月以来の水準にとどまった。政府の失業保険延長給付の影響で、景気動向とズレがある。
20210602c


以上の通りだが、念のため、
新規失業保険請求件数から前月比雇用増加数を推測すると、+1,100千人になる。
受給者数から、その推移の傾向が続くとして、前月比雇用増加数を推測すると、+200千人になる。
全く異なる。全く根拠はないが両者を足して2で割ると、650千人となる。これは市場の予測に近い。
20210602d
20210602e



過去の予想と結果
20210602f






新規失業保険請求件数から推計した4月の非農業部門雇用者前月比増加数は+804千人。

予想のベースとなるグラフは次の通り。
グラフでは、新規失業保険申請件数前月比増加数数(右目盛)と書いてあるが、
正確には、「米新規失業保険申請件数数4週移動平均の4.3週前比増減(小数点以下部分は案分)」。
20210506a

過去の予想と結果
20210506b


なお、FRBは雇用がCOVID-19パンデミック前の水準を回復してこないと利上げしないと言っている。(リーマンショックの時と同じ)
というわけで、当分利上げの可能性は殆どない。
20210506c

市況解説では、
「4月1日に発表された米国の先週分新規失業保険申請件数は前週比6.1万件増の71.9万件と、予想67.5万件を上回った。新規失業保険申請件数が予想以上に増加したため米国債利回りは低下、ドル売りが起きた。」
それにしても、新規失業保険申請件数がこんなに注目されるなんて。以前は一部のプロだけが注目するデータだった。

米失業保険申請、72万人 2週ぶり増加: 日本経済新聞
米新規失業保険申請、予想外に増加-労働市場の回復なお不安定 - Bloomberg
失業保険申請件数の予想外の増加は労働市場の回復が不安定なものになることを浮き彫りにし、新型コロナ流行を要因に失われた数百万の雇用を取り戻すには時間がかかることを示している。一方でワクチン接種が増加し、事業活動の制限措置は緩和されており、雇用の伸びが今後数カ月に加速するとみられている。
米新規失業保険申請71.9万件に悪化、改善傾向変わらず | Reuters

参考 
新規失業保険請求件数のグラフ
News Release

今回の発表では、2016年以降の季節調整が変更されデータが改定された。
それに伴い、新規失業保険請求件数を要因とする雇用統計モデルも修正される。
注 モデル自体は変わっていない。要因(従属変数)のデータが変わっただけ。
これにより、3月の非農業部門雇用者数前月比増加数の予想を622千人から722千人に修正する。
(下二けたが同じ数字になったのは偶然)

変更後
20210402p

変更前
20210402q



新規失業保険請求件数から推計した3月の非農業部門雇用者前月比増加数は+622千人。

新規失業保険申請件数(4週移動平均の1か月前比)と非農業部門雇用者数前月比増減の関係について、
前者は週次データ、後者は月次データ(但し、集計のタイミングは12日を含む週)だが、これまで使っていたグラフは微妙に両者のタイミングがずれてきたので、今回はファインチューニングした。
チューニング後のグラフは次の通り。
20210331a

上図から、3月の非農業部門雇用者前月比増加数は+622千人。

過去の予想と結果
20210331b
これを見ると、全く当たっていないのがよくわかる。以前はこんなに外れなかったのに?
covid-19パンデミック以降、おかしくなった。
ただ、傾向は外れていないので、今回のチューニングで改善することを祈る。

次も参考にしてください。
米 雇用統計と政策金利 : Kecofinの投資情報


<新規失業保険申請件数>
米労働省が11日発表した2月28~3月6日の週間の新規失業保険申請件数は71万2000件で前週から4万2000件減り、2020年11月上旬以来4カ月ぶりの低水準となった。
足元では感染者が減り、飲食店や娯楽施設なども徐々に営業を再開しており、労働市場が回復し始めたとみられる。

参考記事
米失業保険申請 71万件、4カ月ぶり低水準に減少: 日本経済新聞
米新規失業保険申請件数、予想よりも減少-昨年11月以来の低水準 - Bloomberg
米新規失業保険申請71.2万件に改善、労働市場は回復軌道へ | ロイター

私は、雇用統計(非農業部門雇用者数前月比増減)の予測に当たっては、主に新規失業保険申請件数を要因として推計している。
2月の非農業部門雇用者数前月比増減は、私の予想180千人に対し、発表値は379千人だった。集計のタイミング(雇用統計は12日を含む週に調査がある)で大きくずれる可能性があることはわかっていたので納得の外し方だった。しかし、雇用統計発表直前に発表されたADP雇用統計、ISMサービス業指数が弱かったので、それらに影響されてしまったのは残念。

さて、その新規失業保険申請件数(4週移動平均の1か月前比)と非農業部門雇用者数前月比増減の関係は次のとおりである。
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今回発表された2月28~3月6日の週間の新規失業保険申請件数から推計すると、非農業部門雇用者数前月比増減は+688千人になる。
雇用は急改善しているように感じる。つまり、経済も力強く拡大しているようだ。
しかし、イエレン財務長官は2月非農業部門雇用者数前月比増加データに対して、「2月の非農業部門雇用者数の前月比37万9000人増は大きく聞こえるが、そのペースでも完全雇用に達するには2年余りかかるだろう」と指摘。 参照 雇用統計(2021年2月)レビュー(1) : Kecofinの投資情報
68万8000人の雇用増であっても、金融緩和が縮小されることはないだろう。

金融緩和が続行されるうえ、経済は強い、そして、1.9兆ドルの経済対策でさらに強くなる。
参照 ■米、家計支援100兆円 1.9兆ドル対策成立へ: 日本経済新聞

米国株式相場に強気にならざるを得ない。
それは、とりもなおさず、日本の株式市場にも大いにプラスということだ。


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