Kecofinの投資情報

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タグ:ウクライナ

ウクライナ問題は楽観的だが、台湾問題にとって、痛い事例になりそうだ。

外交協議でNATOがロシアの要求を受け入れなかったことから、ロシア軍の侵攻が始まった。
今回の問題は、本来ウクライナとロシアの問題であるのに、米国がしゃしゃりでてきていることだ。

(1)米国は口だけで、武器の提供は続けてはいるが、(ウクライナは同盟国でもないからか)軍隊のウクライナ本土への派遣はしない。
米国は自分で参戦しないので、妥協はしない。
欧州は、ホンネを言えない状態だ。米国が妥協しないので、うっかりホンネをだすと、マクロン大統領のように恥をかく。

(注)台湾が中国に攻めこまれた時も、米国は口だけになることを証明したようなものだ。

(2)米国、EU、英国、日本、カナダなどがロシアに対する経済制裁(資金調達不可など)を発動。しかし、ノルドストリーム2の停止だけで、原油や天然ガスなど、ロシアとの貿易取引を全面的に禁止にはしていない。

SWIFTから排除となった場合は、ロシアとの貿易取引がほぼ停止になる。高インフレ、金融不安が起こり、リーマンショック級のことが起きるかもしれない。金は暴騰する。但し、これは米国にとって何の得もない。
今は、米国は必ずしも当事者ではない(軍隊の派遣さえしていない)が、こうなると話は違ってくる。米国自身に何の得もなく、重大なダメージを食うだけである。
一方、ロシアは、中国や反米諸国との貿易により、ダメージは受けても耐えられるだろう。
こういうところまで行きつかないだろう。

(注)台湾が中国に攻めこまれた時も、米国は中国が保有する米国債を凍結できないだろう。それをすれば、米国企業の中国資産も凍結されるという報復を受けるからだ。

(3)ロシアの外貨準備高は潤沢で、デフォルトリスクは小さい。

(注)中国も外貨準備は潤沢で、経済制裁でデフォルトリスクは小さい。

(4)解決策は一つしかない。外交で片が付かないなら、ゼレンスキー・ウクライナ大統領が「ウクライナ自身がNATO加盟を放棄する」ことだ。
今回の騒動の前の状態に戻るだけで、できないことではない。
ロシアはキエフなどに侵攻する様子はない。ウクライナを統治する意向はないようだ。全面戦争はロシアも望んでいない。

(注)台湾の場合は、香港のように中国側から動く可能性がある。



以上のように、今回の問題は誰も損せずに解決可能だ。但し、ウクライナはNATO加盟という得はあきらめなくてはならないが。

それがわかっているので、金価格も原油価格も最悪の事態を織り込むにはほど遠い。株価の下落はウクライナの問題だけではない。


天然ガスの価格は急騰しているが、昨年の天然ガス不足騒動の時ほどは上げていない。
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Dutch TTF Gas Mar '22 Futures Interactive Chart - Barchart.com

Dutch TTF Natural Gas Calendar Month Futures Quotes - CME Group


今回は、2014年3月発信のレポートの転載
続き(つまり、今回のウクライナ問題)は、別サイト(ウクライナ情勢 - Kecofinの投資情報 - GogoJungle)に。

私は、ロシアにとってのウクライナは、中国にとっての台湾に似ていると思う。台湾が米国と同盟を結ぶと言えば、中国は武力行使してでもそれを阻止するだろう。

==== 以下、2014年3月発信のレポート ====

2014年のウクライナ危機
ヤヌコビッチ政権はEU加盟の準備を進めていたが、2013年11月、これを撤回。これに抗議して大規模な反政府デモが勃発し、親ロ政権が崩壊、親欧米の暫定政権が樹立。
2014年3月、ロシアはロシア系住民が大半を占め、黒海艦隊基地を置くクリミア半島に軍を展開。
アメリカはロシアを強く非難。

<基本的な背景>
(1)ウクライナは、言語的にも文化的にも歴史的にも2つに分断されてきた。1つは、ウクライナ語を話し、ロシアの影響が薄い西部。もう一方は長年、ロシアの支配下に置かれ、ロシア語が使われる東部。ウクライナがかかえる社会的、政治的課題の多くの部分が、この分断に根差している。

(2)ヤヌコビッチ大統領が親ロに動いたのは、財政が悪化する中、ロシアからの支援を求めたからだ。

(3)暫定政権が公用語からロシア語をはずしたのも問題だろう。暫定政権は親ロシア勢力を排除しようとしている。
クリミア半島のロシア海軍基地はロシアとウクライナの間で2042年までの駐留が合意されていたが、ロシアは暫定政権がこの合意を破棄することを危惧したのだろう。

<経緯>
第一次世界大戦後、ウクライナ人民共和国はウクライナ社会主義ソビエト共和国としてソビエト連邦の構成国となった。

クリミアはソ連邦のロシア領だったが、1954年、ソ連のフルシチョフ政権により、クリミア半島はロシアからウクライナに移管された。現在もクリミアの人口の約6割をロシア系が占める。

1991年にソビエト連邦が崩壊するとウクライナは独立した。

2010年2月、親露派のヤヌコビッチが大統領なった。

2013年11月にヤヌコビッチ大統領が欧州連合(EU)との関係を強化する「連合協定」の締結を見送ったことに対し、首都キエフで欧州統合派が大規模な抗議活動を繰り広げた。
そして、2014年2月22日に議会はヤヌコビッチ大統領の解任と大統領選挙の繰り上げ実施を決議するに至った。
5月25日に予定されている大統領選では、親欧州派の勝利が予想された。

2014年3月1日、ロシア上院がプーチン大統領の要請でウクライナへのロシア軍投入に同意した。そして、ロシア系住民が大半を占め、黒海艦隊基地を置くクリミア半島に軍を展開。

<結論>
クリミア自治共和国はウクライナの一部でありながら、ロシアが(ロシア系住民が多数派(約60%)でロシア海軍黒海艦隊基地がある)実質支配している。
ロシアがウクライナを経由しての欧州への天然ガス供給を停止しないのであれば、世界経済、金融市場に波乱は起きないだろう。

・欧州は天然ガス需要の30%をロシアに依存している。その半分は、ウクライナが管理するガスプロムが敷設したパイプラインを経由して供給されている。最大の顧客はドイツである。
・ロシアは3大産油国の一つであり、ロシアで供給障害が起これば、エネルギー価格上昇という形で世界経済に影響が及ぶだろう。
・ロシアは中・東欧各国にとって重要な貿易相手国であり、ドイツの輸出先や投資先としても無視できない存在となっている。
・クリミア南西端セバストポリに、黒海艦隊基地がある。ウクライナ海軍の基地も併設されている。プーチン政権はヤヌコビッチ前政権との間で、2010年4月のハルキウ条約で、黒海艦隊のセヴァストポリ駐留期間が2042年まで延長されている。
ロシアは海軍基地の租借費用として、ウクライナに毎年9800万ドルを支払っており(ウクライナのガス輸入代金が代替される)、さらにガスを1トンあたり100ドル割引している。
ロシアは黒海艦隊の代替基地を自国の領域内に建設していないため、黒海艦隊には、潜在的な敵軍の空母を黒海に寄せ付けないよう、ロシア南部を守るという重要な戦略的課題がある。

リスクシナリオは、ロシアが親露派が多数住んでいる他の地域(ドネツクやハリコフなど)へも進攻していくことで、そうなると、欧米はロシアを孤立させる制裁をとることになろうが、ロシアとの貿易や同国への投資額が大きい仏伊独英などのダメージも大きくなり、世界経済、金融市場は大きな波乱が起きることになるだろう。
この場合、ロシアは明確に国際法に抵触し、ロシアの立場は弱体化することになろう。

2013年のドイツ企業によるロシアに対する直接投資は約220億ドル。ドイツの天然ガス・原油輸入のうちロシア産が占める比率は、全体の3分の1超。ドイツは原発全廃に向かっており、ロシアへのエネルギー依存度は高まるとみられている。ドイツの政策当局者は以前からエネルギー供給源の多様化について議論しているが、主としてコスト要因からほとんど進展はみられない。

習近平はウクライナを訪問しており、ヤヌコビッチ大統領と会見して、2013年12月に友好協力条約に調印した。中国はウクライナへの農業、エネルギー分野、インフラ建設、ハイテク、航空技術、宇宙開発の分野での協力を謳った。中国の狙いは、ウクライナから購入した空母ヴァリヤーグ(中国名は「遼寧」)が示唆するようにウクライナに残存する武器技術である。

いずれにしろ、シリア化学兵器問題のときも米が引いた形になっていることや、中国も台頭してきていることなどから、米国の世界におけるパワーが徐々に落ちていっており、地政学的リスクが長期的・趨勢的に高まっていっていることには注意すべきだろう。











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