Kecofinの投資情報

市場歴約40年の元証券投資ストラテジスト・ファンドマネージャーが、経済、市況分析情報を提供します。

タグ:インフレ

今の投資環境の最大のテーマ「世界的インフレ」の背景についてまとめておく。
オーバーラップしている項目もあるが、一応、次の通り。
なお、地政学的リスク(中国、ロシア、台湾、ウクライナ)も大きくなっている。
新型コロナは、もはやリスクではなく、顕在化している。

世界的インフレの背景

(1)ペントアップディマンド
コロナ禍で抑制されていた消費が、行動制限が緩和されたことによって急速に拡大した(需要過多)。

(2)コロナ禍で生産活動は停滞(供給不足)。(比較的コロナの影響が小さかった中国の輸出が増えた)

(3)コロナ禍で人手不足が起き、人件費が高騰した。

(4)サプライチェーンの目詰まり
コロナ禍で東南アジアなどでの部品供給網が寸断され、供給サイドから価格上昇圧力が生じている

(5)米中対立激化により、半導体の供給不足が起きている。

(6)コロナ禍で停滞した経済を浮揚させるため、世界的に量的緩和がなされた。excess moneyが発生し、物価、資産(株価、不動産)価格の上昇をもたらした。

(7)米国では、コロナ禍で国民支援のために、現金給付を行い(拡張的財政)、消費を爆上げさせた。

(8)脱炭素の影響。
世界では脱炭素を急いでいるが、まだ化石燃料が必要。ところが、化石燃料への設備投資がなく、化石燃料の供給が細っている。
化石燃料への設備投資は、将来的に価値を生まない「座礁資産」になることを恐れ、新たな開発や設備投資に尻込みする。

(9)米シェールオイルが復活せず、原油の需給が悪化。
2020年の悪夢から、新たに開発をする体力がないし、将来性も見いだせない。




イエレン長官は、米国よりも景気回復の勢いがはるかに弱い他の国々もインフレ高進に見舞われているとし、それは物価高の大部分がサービスからモノへの需要のシフトと、新型コロナ禍に起因する物品供給の混乱によるものであることを示唆していると語った。
物価上昇圧力が和らぎつつあるかどうかを判断するのに、前月比のインフレ動向を注視しているとした。

ラガルドECB総裁は、
<ユーロ圏と米国の違い>
ユーロ圏の需要は新型コロナ禍前の推移を回復したところだが、米国は30%増だ。
米国では大規模な財政出動が行われたからだ。ユーロ圏での財政出動はより緩やだった。
<ユーロ圏と英国との違い>
英国では、求人に対して労働者が不足しているため、賃金に大きな圧力がかかっている。
(ブレグジット後に)英国を離れた多くの外国人労働力は完全に代替されておらず、労働者不足は英国の労働市場に影響を及ぼしている。










FRBはインフレ抑制の対応に楽観的過ぎる、FRBのインフレ対応は後手に回っている と、FRBはサマーズ元米財務長官などから激しく責められている。
つまり、パウエル議長が「インフレは一時的」と頑なに言い張ったことを責められている。

しかし、パウエル議長はそうせざるを得なかった。当時、民主党上院議員の一部がハト派で、パウエル議長はハト派政策を訴えなければ再任を拒否された可能性があったからだ。このことについて、詳細は省略するが、再任の決定が延び延びになったように、いろいろあった。
パウエルFRB議長は今後「豹変」するかもしれない | 東洋経済オンライン
なので、パウエル議長は再任が決まると、直ちにタカ派に転じた。

この過程で、前FRB議長のイエレン財務長官も「インフレは一時的」とパウエル議長を支持していたが、イエレン氏はパウエル議長を支持しているというより、パウエル議長の再任を支持していたのだ。
パウエル議長が再任されなければ、2代にわたってFRB議長は1期で交代、大統領が代わるたびに交代という、FRBにとっては好ましくないことが起きてしまうのを防ぎたかったのだ。イエレン長官は、今もFRBのことを思っている。

それでも、パウエル議長が一時的と言っていたのに根拠がなかったわけではない。3点ある。
しかし、その3点とも今や、インフレが進む可能性を示している。

(1)原油価格
FRBがターゲットにしているインフレ指標はPCE価格指数である。この指数は、原油価格との連動性が高い。何しろ、米国は自動車と輸送の国である。エネルギー価格が物価に与える影響は大きい。
パウエル議長がインフレは一時的と考えたのは、2020年に原油価格は一時マイナスに落ち込むほど低下したので、2021年の原油価格の前年比がとんでもなく高くなってしまったということだ。なので、原油価格の上昇率が低下してくれば、物価高も沈静化してくると考えていたようだ。
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次からは、一般にはあまり取り上げられない指標だ。

以下は、有料サイトに
パウエル議長のタカ派への転換 - Kecofinの投資情報 - GogoJungle










次のサイトに掲載しています。

米国インフレ関連指標 定点観測 - GogoJungle

私は、予想より早く、テーパリングに入ると見ているが、それが明日起きると考えてはいけない。時期の予想は難しい。先走ると、バカを見ることが多い。用心深く、しかし焦ってはいけない。

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予想以上に物価が上昇しても、強い経済データが発表になっても、金利が上昇しなかったので、金利上昇に賭けていた投資家が、巻き戻しを余儀なくされ、金利低下が起きたということだろう。

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米国市場の大きな変化=それは、インフレ懸念が後退したことである。
徐々に、そういう気運は高まっていたが、4月13日の予想以上CPIの発表にも拘わらず、10年金利が低下したことで明白になった。
そして、15日、フィラデルフィア連銀製造業指数は1973年以来の高水準、NY連銀製造業指数は2017年以来の高水準、小売売上高は9.8%の大幅増、新規失業保険申請件数は大幅減、それなのに10年金利は大幅急低下した。それを受けて、ドル安、金価格上昇が起きた。摩訶不思議とはこのことだ。

そもそも、市場は、これまでの積極的な景気刺激策を背景に経済が回復基調を強めているなかで、新型コロナ・ワクチンの普及してきていること、さらに大型経済対策が打たれることで、ペントアップ・ディマンドもでて、ディマンドプル・インフレを懸念していた。

市場が懸念していたのは、グラフの赤線のような事態だった。
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20210416b

しかし、状況は変わった。
赤線の懸念は後退し、過去平均並みの状態に戻ると市場はchange mindしたようだ。
FRBは、一貫して「一時的な物価上昇はあっても、賃金のスパイラル的な上昇がなければ、持続的インフレは起きない。そして、雇用水準が今のように低ければ、スパイラル的賃金上昇は起きない。」と言ってきた。市場もそういう見方になったのだろう。
また、追加経済対策の一方で、増税という軽いブレーキも踏まれそうなことも景気過熱・インフレ懸念抑制につながったであろう。

それはそれでいいのだが、問題はchange mindしたタイミングだ。冒頭のようなタイミングで、インフレ懸念が抑制されたのは殆ど説明がつかない。

一部の米国投資家などは、インフレ懸念低下⇒金利低下ではなく、
米国長短金利差拡大&短期金利の長期低位安定⇒日本から為替ヘッジコスト低下を背景とした米長期債購入が増える⇒米長期金利低下 と解説している。
海外投資家による米国債保有が大きく、その中でも日本による米国債保有が世界一ということに敬意を払ってくれたのだろう。
参照 誰が米国国債を買っているか
こういう解説をしなくてはならないほど、説明に窮しているということだ。
かりにそうだとしても、タイミングの説明がつかない。

結局、予想以上に物価が上昇しても、強い経済データが発表になっても、金利が上昇しなかったので、金利上昇に賭けていた投資家が、巻き戻しを余儀なくされたということだろう。

今回はここまでにするが、今後のブログの予定として。
(1)経済が拡大すると、まずは単位労働コストが低下(生産量は増えるが、賃金上昇は遅れる)し、生産コストが低下するために物価は下がることが多い。
(2)インフレは起きなくても、足元で住宅価格の上昇に弾みがついている。住宅ローン金利につながる長期金利があまり低下して住宅購入ニーズが刺激されることはFRBとしては歓迎しないだろう。

注目の消費者物価上昇率が発表された。
(本当の注目は4月のコア個人消費支出価格前年同期比上昇率だが)
2月の食料とエネルギーを除いたコア消費者物価(CPI)前月比上昇率は0.10%と過去の平均的な水準よりもかなり低い、前年同月比も1.28%と全く低い。
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20210311b
これと、1.9兆ドルの追加経済対策法案を下院が可決し早期成立の目処が立ったことからNYダウは大きく上げた。
但し、インフレ懸念が払しょくされたわけではないこと、投資家の銘柄入れ替え(成長株から割安株へ)が行われていることからNasdaqは下げた。
(注)年金などは、一たび方針を決めたら、簡単には方針を変更しない。


今回の2月の消費者物価上昇率だが、エネルギーを除くと、かなりの項目で伸びが低い。
Consumer Price Index for February 2021

企業の仕入れコストの上昇、需要の増加から考えて、奇妙だ。
イエレン財務長官は、一時的にもインフレは起きない(コアで2%超?)ようなことを言っている。
引き続き要注意。
20210311c

参考
米国 インフレ懸念高まる
米国 物価について 現況(3)

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