Kecofinの投資情報

市場歴約40年の元証券投資ストラテジスト・ファンドマネージャーが、経済、市況分析情報を提供します。

2020年10月

ドルは他の通貨に対してはややドル高に動いているが、円に対しては低い方、つまり、円高に動いている。理由がわからない。日本でのコロナ感染拡大が欧米に比べ軽微だからだろうか?リスク回避(大統領選や株式相場の下落など)の円高だろうか?
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まず、ドル/円は通常、米金利と連動するが、今は逆行している。
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これについて、以前、米実質金利低下懸念からきていると書いた。つまり、(1)為替レートは本来実質金利差を反映する。(2)日本の実質金利は安定しているのでドル/円の実質金利差動向≒米実質金利動向である。(3)ブルーウェーブになれば米期待インフレ率が上昇し、実質金利(=金利ー期待インフレ率)が低下する。(4)米実質金利が低下すれば、ドル安・円高になる。
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どうもこの説は怪しくなってきた。なぜなら、もうほとんどバイデン勝利確実と市場は見ているのに、一向に期待インフレ率は上昇していない。
ホンネはトランプが勝利すると市場は考えているのか?
バイデンが勝っても財政刺激はほどほどになると考えているのか、いずれにしろ期待インフレ率( Breakeven Inflation Rate)は上昇しないと考えているのか?
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では、何がドル/円相場を決めているのか?投機筋のドルロング(又は円ショート)の巻き戻しか?
しかし、CFTCの投機筋のデータを見ても、投機筋に大きな動きはないようだ。
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以上のわけで、円高の理由がわからない。しかし、このようなことは時々起こっている。結論は、最初のグラフに見るように、どこかで106円に戻っていくのだと思う。

一つ引っかかているのは、日本の基礎収支である。データの発表が遅いので、確認はできないが、日本の対外直接投資が減り、原油安で貿易収支が改善して、基礎収支の黒字が大きくなっているのではないだろうか?(所得収支は減っているかもしれないが?)
だとすると、実需の動きは円高を起こしているかもしれない。
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というわけで、ずるいようだが、ドル/円は横ばいを予想している。

なお、ユーロはユーロ圏経済の軟化・追加金融緩和からユーロ安、豪ドルは追加金融緩和確実・豪米金利逆転で緩やかな豪ドル安(中国経済が軟化すれば、普通に豪ドル安)を予想している。


1年というベースでは、日銀のETF購入効果は結構ある。
赤線は「海外投資家の日本株現物・先物買越額(52週計)」である。最近は(一時期を除いて)かなりの売り越しが続いている。
青線は「日銀によるETF購入額(52週計)」である。
黒線は両者の合計である。日銀が海外投資家の売りをカバーしており、両者合計では殆どマイナスになっていない。
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しかし、短期的(ここでは4週計)に見ると、日銀の買い効果はほとんど見えない。
赤線(海外投資家売買動向)と黒線(日銀+海外投資家 売買動向)は殆ど同じに見える。
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やはり、以前のように、年6兆円程度をコンスタントに買っていく買い方では、短期的に動きの大きな海外投資家の売買をカバーできない。

しかし、今は上限が年12兆円になった。しかも、『市場の状況に応じて買入れ額は上下に変動しうるものとする』とし、ほぼ自由だ。これは、いざとなれば、大きな金額をつぎ込める。これは心強い。
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グラフを見ても、海外投資家の売りは大きくても、4週計で約4兆円である。今なら、日銀にその対応力はある。
参考のため、今年度(4月1日~10月29日)の日銀ETF購入額は4兆179億円。年に12兆円が上限なので、残り5カ月(11月~来年3月)でおよそ8兆円の買い余力がある。
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日銀に加え、2020年9月30日~2020年11月16日までNTTによるドコモの公開買付、約4兆円がある。取引所の取引として計上されないが場外支援となる。6週で4兆円は大きい。

需給面では、日本株は大きな見方がいる。日銀は相場を押し上げるつもりはないが、下支え効果は十分に期待できるだろう。

<日銀の金融政策>
ETFについて、年間約12兆円に相当する残高増加ペースを上限に買入れを行う。
原則的な買入れ方針としては、保有残高が年間約6兆円円に相当するペースで増加するよう買入れを行い、市場の状況に応じて買入れ額は上下に変動しうるものとする。

海外投機筋が先物売をすると、日本の証券会社は、その相手方になって先物買いを行うとともに、現物のバスケット売り(裁定売り)を行う。こうして、海外投機筋が先物売りを行うと裁定売りが発生し、裁定残は海外投機筋の先物ポジションを反映することになる。
勿論、裁定取引の全てが海外投機筋の先物売買に対応するものではないので、大まかな話である。
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さて、その裁定取引残が過去と比べて異常な状態になっている。過去にはなかったネットショート、つまり裁定売り残が裁定買い残を大幅に上回っているのだ。つまり海外投機筋の先物ポジションは大幅ショートになっているということ。海外投機筋は日本株に弱気ということだ。
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これを、ロング、ショート別に見ると、ショートが高水準になっていることがわかる。
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私は、このショートがいつ解消されるかと考えてきたが、ひょっとすると、この状態がいつまでも続くかもしれない。つまり、海外投資家は日本株に弱気を続けるということだ。
このショートを受けたのは、日銀のETF買いである。であれば、海外投機筋がショートを買い戻すのは日銀がETFを売るときとなるのが自然だ。

結論は、海外投機筋のショートポジションが高いからと言って、その買戻しを期待することはできないかもしれないということ。相場にとって中立の話だ。

逆に、日銀が保有ETFの出口戦略を考えると相場にはネガティブな話だが、そうでないなら、今後の相場にとって中立要因だ。

当たったり、当たらなかったりする、私の今の相場予想は;-
株は米・欧・日とも軟調。 米国10年金利は0.6%台。 為替は、ドル円横ばい、ユーロ安、豪ドル安である。

欧州では、COVID-19感染拡大を抑えるえるために事業活動のさらなる制限が行われ、SAPショックもあり、経済、株価ともにダメージを受けている。
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SAP SE収益予想ガイダンスを引き下げ、思いっきり売られている。好調に思われていた企業が先行き不安になるといかに売られるかわかる。9月末時点でMSCI日本(320銘柄)の時価総額トップ企業はトヨタで3.9%、MSCIドイツ(63銘柄)ではSAPが12.3%。ドイツ市場の狼狽ぶりがわかろう。

(注)SEとは:ラテン語でソシエタス・ヨーロピア(Societas Europeae、欧州会社)の略で、EU法のもと設立される会社形態。SAPは2014年にAG(Aktiengesellschaft、独株式会社)からSEに変更している。

米国でも感染拡大が再び増加。入院率も増加しているようだ。
大統領選の選挙結果が不明確または争われるリスクも高まっていると市場は考えている。
火曜日にマイクロソフトMSFTは予想よりも良い業績発表をしたが、今日は大幅に株価は下落している。
市場は、COVID-19感染再拡大で、最初の感染拡大の時の相場を思い出している。
金融面でも財政面でもそれなりの対処はなされてはいるので3月ほどひどい相場にはならないだろうが、景気回復ムードは吹き飛ぶだろう。
それに、今回は、Fedの援護はあっても、インパクトは小さくなる。財政面ではどうなるかわからない。バイデン氏が勝っても、就任までは時間がある。トランプ氏が勝てば、次の大統領選は気にする必要がないので、追加で積極的な手を打たないかもしれない。

金相場は、フェアバリューは1880.4で、実際の相場とほとんど乖離はなく、何かリスクプレミアムが発生しているということはない。
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それにしても、SAPショックのドイツ株相場へのダメージは大きい。
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VIX指数は向こう30日の予想変動率、HVは過去30日の実績変動率、といっても、通常、両者の動きは殆ど一致する。
ところが、10月20日ころから両者の動きは反対になっている。めったにないことだ。
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意味するところは、米国株相場は、これから荒れそうだということだ。
荒れるということは、通常下落するということだ。
こんなことで相場の下落を予想するわけではないが、一応、要注意。

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VIX指数とはS&P500指数のオプション取引値から算出され、今後30日間のS&P 500の予想変動率を示す指数である。
30日Historical Volatility(ヒストリカル・ボラティリティー)は、過去30日間の毎取引日の変化率から算出した数値だ。こちらは、過去の実績値の変動率だ。
コンセプトとしては、VIX指数は向こう30日の予想変動率。30日HVは過去30日の実績変動率だ。

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